【§3】定理三銃士を連れてきたよ

定理三銃士!?

§3 Overview of proofを読んでいきます。

前記事の仮定として用いられていた定理2.4を証明するために、また別の定理を3つ用意します。
canaan1008.hatenablog.com

それぞれの証明はまた今度やるとして、ここではその3つの定理から定理2.4が導出できることを確認します。

いろんなノルム

関数の大きさ(みたいな概念)を測るのに、ノルムというのがあります。
最初のほうの定義でも2種類のノルム(\|f\|_{L^\infty}\|f\|_{L^2})が出てきましたね。

まずここでは2種類のノルムを紹介しています。詳しい定義は後で、らしいです。

  • Gowers一様性ノルム属

$$ \|f\|_{U^0} \leqq\|f\|_{U^1} \leqq \cdots \leqq \|f\|_{U^{k-1}} \leqq \cdots \leqq \|f\|_{L^\infty}$$

  • 一様概周期性ノルム族

$$ \|f\|_{UAP^0} \geqq\|f\|_{UAP^1} \geqq \cdots \geqq \|f\|_{UAP^{k-2}} \geqq \cdots \geqq \|f\|_{L^\infty} $$

どうやらこの2種類のノルムを使うことで、関数fランダム性構造が定まるらしいです。どういうこっちゃ!

定理三銃士

順番に見ていきます。

定理3.1 一般化 von Neumannの定理
整数k\geqq 2とし、\lambda_0, \dots, \lambda_{k-1}\mathbb{Z}_Nの相異なる元とする。
このとき、任意の有界関数f_0, \dots, f_{k-1}:\mathbb{Z}_N\to\mathbb{C}に対して、$$
\left|\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{\lambda_j r}f_j\right)\right| \leqq \min_{0\leqq j\leqq k-1} \|f_j\|_{U^{k-1}}
$$が成り立つ。
f_j(x+\lambda_jr)jをブワーッって動かしながら掛けて、出来上がったものをxrをブワワーッって動かしながら足してその平均をとります(?)。
定理2.4の左辺と似ているようで違う。
その絶対値がf_jのGowersノルム(\|\cdot\|_{U^{k-1}}で計測)の最小値で押さえられますよ、ということを主張しています。(正直まだ全然イメージできていない。)
定理3.3 一様概周期関数の回帰性
整数d\geqq 0, k\geqq 1、非負値有界関数f_{U^\perp},f_{UAP}が、ある0\lt \delta, M\lt\inftyに対して\begin{align}
&1.&\|f_{U^\perp}-f_{UAP}\|_{L^2} & \leqq \frac{\delta^2}{1024k}\\
&2.&\int_{\mathbb{Z}_N}f_{U^\perp} & \geqq \delta\\
&3.&\|f_{UAP}\|_{UAP^d} & \lt M
\end{align}を満たすと仮定する。
このとき、任意の\mu\in\mathbb{Z}_N, N_1\geqq1に対して$$
\mathbb{E}_{0\leqq r \leqq N_1}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{\mu jr}f_{U^\perp}\right) \gg_{d,k,\delta, M} 1
$$が成り立つ。
仮定1ではf_{U^\perp},f_{UAP}の関係、仮定2ではf_{U^\perp}、仮定3ではf_{UAP}の条件を述べているようです。
それに対して結論ではf_{U^\perp}についてしか述べてません。
f_{UAP}は何処へ。と思いましたが、十分大きいことを述べるための定数がM(つまりf_{UAP}のノルムを押さえている値)にも依存しているようです。
定理3.5 構造定理
kk\geqq 3を満たす自然数、fをある0\leqq \delta \leqq 1に対して\int_{\mathbb{Z}_N}f\geqq \deltaを満たす非負値有界関数とする。
また、F:\mathbb{R}^+\to\mathbb{R}^+を任意の関数とする。
このとき、ある正の数M=O_{k,\delta, F}(1)、有界関数f_U:\mathbb{Z}_N\to\mathbb{C}、非負値有界関数f_{U^\perp},f_{UAP}が存在して、$$
f=f_U+f_{U^\perp}$$$$\text{定理3.3の3つの仮定が}d=k-2\text{で成立}$$$$\|f_U\|_{U^{k-1}}\leqq \frac{1}{F(M)}$$が成り立つ。
この定理の一番のキモはf=f_{U}+f_{U^\perp}にありそうです。fを2つの関数f_{U}f_{U^\perp}に分解することができ、それぞれについての性質(定理3.3,3.5の結論)が成り立つ、ということを述べているように見えます。

証明

この3つの定理から、以前扱った定理2.4を導くことができます。

定理2.4(再掲) 定量的回帰定理
任意の整数k\geqq 1、十分大きな素数N\geqq 1、任意の0 \lt\delta\leqq 1に対し、
\int_{\mathbb{Z}_N}f\geqq\deltaを満たす任意の非負値有界関数f:\mathbb{Z}_N\to\mathbb{R}^+に対して、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f\right) \gg_{k,\delta} 1
$$が成立する。
がんばるぞい!

k,\delta,fを定理2.4の仮定のものとする。
また、d=k-2のとき、定理3.3の結論の左辺が正の定数c(k,\delta,M)で下から押さえられているものとする。(\text{左辺}\geqq c(k,\delta, M))


F:\mathbb{R}^+\to\mathbb{R}^+として、任意のM\gt 0に対して$$
F(M)\gt\frac{2^k-1}{c(k,\delta, M)}
$$を満たすFを1つ選び、この設定に対して定理3.5で存在するM=O_{k,\delta}(1),f_{U},f_{U^\perp},f_{UAP}を取る。
このとき、\begin{align}
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f\right) &= \mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}(f_U+f_{U^\perp})\right)\\
&=\sum_{(f_0,\dots,f_{k-1})\in\{f_{U},f_{U^\perp}\}^k}\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j\right)
\end{align}ここで、f_0=f_1=\cdots=f_{k-1}=f_{U^\perp}となる場合は。定理3.3の\mu=1,N_1=N-1の場合に当たるので、下からc(k,\delta,M)で押さえられる。(☆)

また、残りの2^k-1項はf_0,f_1,\dots, f_{k-1}に少なくとも1つf_{U}を含む。
よって、定理3.1と定理3.5よりどの項の絶対値も\frac{1}{F(M)}で上から押さえられる。$$
\left|\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j\right)\right|\leqq \|f_{U}\|_{U^{k-1}}\leqq\frac{1}{F(M)}\tag{★}
$$

☆★より、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f\right) \geqq c(k,\delta,M)-\frac{2^k-1}{F(M)}(\gt 0)
$$
M=O_{k,\delta}(1)より、右辺は全てk,\deltaに依存している定数であるため$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f\right) \gg_{k,\delta} 1
$$が導かれる。

参考:インテジャーズ「タオのセメレディ論文の§3を読む」

絡み合う定理

今回は3つの定理から一つの定理を証明するものだから大変です。
しかもいろんな文字がとにかく入り乱れるものだからさらに大変。
と、いうわけで地図を書いてみました。
f:id:canaan1008:20180427022135j:plain
見づらいとか言わない!
何が仮定でそこから何が導かれるのか、ということがわかれば大丈夫です。

おさらいします。
定理2.4の仮定k,\delta,fから、定理3.1,3.3,3.5をうまいこと使って定理2.4の結論を導こう!というのが目的です。
気を抜くと案外これを見失います。

前準備

k,\delta,fはこのマップ内ですべて同じものとして見ます。最初の仮定の3つをそのまま他の仮定としても使うよ〜〜ということです。
また、左下(定理3.3)の\gg_{d,k,\delta,M}\geqq c(k,\delta,M)と書き換えましょう。(\ggの定義からこう書ける)
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さらに前準備

定理3.5では任意の関数F:\mathbb{R}^+\to\mathbb{R}^+が扱えるので、任意のMに関してF(M)\gt\frac{2^k-1}{c(k,\delta,M)}を満たすようなFを用意しましょう。(kc(k,\delta,M)は既に用意されているのでこう置ける)
そうすると定理3.5を成り立たせるM=O_{k,\delta}(1), f_{U},f_{U^\perp},f_{UAP}が存在します。それらを他の定理にぶち込むために一旦キープします。
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バラして組み立てる

さて、定理3.5よりfが分解できることがわかったので、証明したい定理2.4結論の左辺にブチ込みましょう。
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この式変形がちょっとややこしいですが…$$
\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}(f_{U}+f_{U^\perp})
$$というのは\prodを外すと$$
(T^0f_U+T^0f_{U^\perp})(T^rf_U+T^rf_{U^\perp})\cdots(T^{(k-1)r}f_U+T^{(k-1)r}f_{U^\perp})
$$となります。

これを展開すると2^k個の項が出てきますが、それぞれの項はすべて$$
(T^0f_0)(T^rf_1)\cdots (T^{(k-1)r}f_{k-1})=\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j
$$という形をしており、f_jf_Uf_{U^\perp}のどちらかです。
しかも、もれもかぶりもなく2^k通り全てが出てきます。

よって、あとはその全パターンの和を取ってあげればいい!ということで$$
\sum_{(f_0,\dots,f_{k-1})\in\{f_{U},f_{U^\perp}\}^k}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j
$$こうなります。
あとは和の順序を入れ替えているだけです。

ラストスパート

定理2.4結論の左辺が2^k個の項に分割できました。
このうち、全てがf_{U^\perp}である項とそれ以外の項に分けて考えます。
すると…
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全てがf_{U^\perp}である項は定理3.3で\mu=1, N_1=N-1と置いた場合になります。つまり、定数c(k,\delta,M)で下から押さえられるわけです。(☆)
f_Uを一つでも含む項は、まず定理3.1で(\lambda_j=jとおくことにより)$$
\left|\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j\right|\leqq\|f_U\|_{U^{k-1}}
$$であることがわかり*1、さらに定理3.5の結論より$$
\|f_U\|_{U^{k-1}}\leqq \frac{1}{F(M)}
$$であることがわかるので結局$$
\left|\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j\right| \leqq \frac{1}{F(M)}
$$です。絶対値を取ってマイナスの方を見ると$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j \geqq -\frac{1}{F(M)}
$$ですね。(★)

☆の場合(1通り)と、★の場合(全部で2^k-1通り)を合わせて全パターンを網羅できるので、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j \geqq c(k,\delta,M) - \frac{2^k-1}{F(M)}
$$です。ちなみにこれはF(M)\gt\frac{2^k-1}{c(k,\delta,M)}と最初に取ったことより、\gt 0であることがわかります。

Mk,\deltaに依存した定数であるので、右辺で押さえている定数は結局k,\deltaのみに依存しています。
よって、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f_j \gg_{k,\delta} 1
$$であることがわかりました。めでたしめでたし。

今後

いきなりノルムとか出てきてわけわかんねえぜ!ってことで§4ではGowers一様性ノルムの定義を行います。
そのあと定理3.1の証明が行われます。
ホントに後に示す定理を先に持ってきて使っちゃいますねこの論文。

*1:右辺は\displaystyle \min_{0\leqq j\leqq k-1}\|f_j\|_{U^{k-1}}なのでそのまま使うと微妙に違ったものになりますが、\displaystyle \min_{0\leqq j\leqq k-1}\|f_j\|_{U^{k-1}}\leqq \|f_U\|_{U^{k-1}}が成り立ちます。よくよく考えると当たり前で、クラスの中で一番背が低い人はクラスのどの人よりも背が低い、と言っているようなものです(その中の一人として\|f_{U}\|_{U^{k-1}}君を選んだだけの式)。