母関数とバーゼル問題

以前このような式を紹介しました。$$
\frac{\pi^2}{6}=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots
$$この右辺は、こんな風に考えることもできそうです。

$$
f(x)=\frac{1}{1^2}x^1+\frac{1}{2^2}x^2+\frac{1}{3^2}x^3+\frac{1}{4^2}x^4+\cdots
$$と置くときの、$$
f(1)
$$の値
つまりこのf(x)を閉じた式で表すことができれば、\ x=1\ を代入して\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdotsの値を求めることができそうです。たぶん。

困ったら微分

この右辺が何らかの有名なマクローリン展開の形になっていれば話は早いのですが、すぐには見つかりそうにありません。

とりあえず微分してみましょう。\begin{align}
f'(x)&=\left(\frac{1}{1^2}x^1+\frac{1}{2^2}x^2+\frac{1}{3^2}x^3+\frac{1}{4^2}x^4+\cdots\right)'\\
&=\frac{1}{1}x^0+\frac{1}{2}x^1+\frac{1}{3}x^2+\frac{1}{4}x^3+\cdots
\end{align}
xの指数が降りてきて分母と上手いこと打ち消しあい、分数がシンプルになりました(というかそうなるようにf(x)を作った)

ところで

ここで前回の記事内容を思い出すと$$
\log(1+x) = \frac{1}{1}x^1-\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3-\frac{1}{4}x^4+-\cdots
$$です。
canaan1008.hatenablog.com

なにやらf'(x)と右辺が似ていますね...

符号が交互になっているのをプラスに揃えるには、x-xに置き換えてあげれば良さそうです。
すると、こうなります。$$
\log(1-x) = -\frac{1}{1}x^1-\frac{1}{2}x^2-\frac{1}{3}x^3-\frac{1}{4}x^4-\cdots
$$右辺を綺麗にするために両辺を-1倍しましょう$$
-\log(1-x) = \frac{1}{1}x^1+\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{4}x^4+\cdots
$$

見比べて、結ぶ

これまでこの2つのことがわかりました
\begin{align}
f'(x)&=\frac{1}{1}x^0+\frac{1}{2}x^1+\frac{1}{3}x^2+\frac{1}{4}x^3+\cdots\\
-\log(1-x) &= \frac{1}{1}x^1+\frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{4}x^4+\cdots
\end{align}
似てる!!!!

f'(x)xをかければ-\log(1-x)になりそうですね。$$
x\cdot f'(x) = -\log(1-x)
$$これより、$$
f'(x) = -\frac{\log(1-x)}{x}
$$であることがわかりました。

積分

あとはf'(x)からf(x)が分かればあとはx=1を代入するだけで良いのですが、いかんせん不定積分をすると積分定数が出てきてしまします。こりゃ困った。$$
\int f'(x) dx = f(x) + C
$$
ここでもともとのf(x)の定義を見てみると、f(0) = 0であることがわかるので、積分範囲を0から1にすることで求めたい値を出しちゃいましょう。\begin{align}
\int_0^1 f'(x) dx &= f(1) + C - (f(0) + C)\\
&=f(1)
\end{align}
ということで、f'(x)0から1まで積分すればバーゼル問題の値がわかる!やったね!!$$
\int_0^1 -\frac{\log(1-x)}{x} dx = \text{????}
$$
で、この値ってどうやって求めるの…?

WolframAlpha先生

計算してもらいました。
f:id:canaan1008:20180310160502p:plain

ちゃんと\frac{\pi^2}{6}になってる!やった〜〜〜!!!!

ところでLi_2(x)って何??

どうやら対数積分多重対数関数というらしく、素数定理などに出てくる式らしいです。
まさかこのタイミングで素数が絡んでくるとは思って無くて驚き。
(正しい名前を教えてくれたたけのこ氏に感謝)

まとめ

バーゼル問題に限らず、無限級数の値を求めたいときは母関数でひとまとめにしたあとに\ x=1\ を代入するという導出方法もあるようです。
まあ式によっては\ x=1\ を代入して良いかどうかを厳密に吟味する必要があるとは思いますが、そんなこと知ったこっちゃねえ!という態度でとりあえずぶち込んでみましょう。話はそれからだ。

ちなみに明らかに発散するような数列の母関数に\ x=1\ を代入して遊ぶのも面白いです。

たとえばフィボナッチ数列の母関数は$$
F(x)=\frac{x}{1-x-x^2}
$$ですので、\ x=1\ を代入することで\begin{align}
F(1)&=1+1+2+3+5+8+13+21+\cdots\\
&=-1
\end{align}というとんでもない式が出てきます。でも楽しい。