自然数の平方の逆数和で遊んでみた

 \frac{\pi^2}{6}

突然ですが、$$
\frac{\pi^2}{6}=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots
$$です。
数学好きの方の多くがこの数式を眺めているだけで多幸感を感じる傾向があります。

何はともあれ導出だ

この、「自然数の平方(2乗)の逆数和」を求める問題はバーゼル問題と呼ばれているそうです。
簡単な導出は↓こんな感じ↓になります。(符号や指数を冗長に書いています。*1 )



\sin xは次のようにマクローリン展開できる*2。$$
\sin x = +\frac{1}{1!}x^1-\frac{1}{3!}x^3+\frac{1}{5!}x^5-+\cdots
$$ここでx\neq 0とし、両辺xで割って$$
\frac{\sin x}{x} = +\frac{1}{1!}x^0-\frac{1}{3!}x^2+\frac{1}{5!}x^4-+\cdots \tag{1}
$$を得る。

また、\sin xx=n\pi(ただしnは整数)で0となるため、$$
\sin x=x\left(1-\frac{x}{1\pi}\right)\left(1+\frac{x}{1\pi}\right)\left(1-\frac{x}{2\pi}\right)\left(1+\frac{x}{2\pi}\right)\cdots
$$と因数分解のようなことができる。
ここでもx\neq 0として両辺xで割って、さらに右辺のそれぞれの積は和と差の積の形になっているため、$$
\frac{\sin x}{x}=\left(1^2-\frac{x^2}{1^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{x^2}{2^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{x^2}{3^2\pi^2}\right)\cdots \tag{2}
$$を得る。

(1)(2)より、$$+\frac{1}{1!}x^0-\frac{1}{3!}x^2+\frac{1}{5!}x^4-+\cdots = \left(1^2-\frac{x^2}{1^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{x^2}{2^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{x^2}{3^2\pi^2}\right)\cdots
$$これはxについての恒等式なので、x^2の係数を比較して、$$-\frac{1}{3!}=-\left(\frac{1}{1^2\pi^2}+\frac{1}{2^2\pi^2}+\frac{1}{2^2\pi^2}+\cdots\right)
$$両辺に-\pi^2をかけて、$$
\frac{\pi^2}{6}=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots
$$を得る。



\sin xを因数分解しちゃうアイデアがすごいですね。
オイラーが考えた解法らしいですが、個人的にはテトラちゃんのイメージが強烈にあります*3

さてここでは\sin xのマクローリン展開を使って平方数の逆数和が出てきたわけですが、ふとこんなことを思い立ちました。
\cos xのマクローリン展開でやったらどうなるの?」

\cos xから攻めてみる

実際にやってみましょう。



\cos xは次のようにマクローリン展開できる。$$
\cos x = +\frac{1}{0!}x^0-\frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{4!}x^4-+\cdots \tag{3}
$$

また、\cos xx=\frac{2n+1}{2}\pi(ただしnは整数)で0となるため、$$
\cos x=\left(1-\frac{x}{\frac{1}{2}\pi}\right)\left(1+\frac{x}{\frac{1}{2}\pi}\right)\left(1-\frac{x}{\frac{3}{2}\pi}\right)\left(1+\frac{x}{\frac{3}{2}\pi}\right)\cdots
$$と因数分解のようなことができる。整理して、$$
\cos x=\left(1-\frac{2x}{1\pi}\right)\left(1+\frac{2x}{1\pi}\right)\left(1-\frac{2x}{3\pi}\right)\left(1+\frac{2x}{3\pi}\right)\cdots
$$右辺のそれぞれの積は和と差の積の形になっているため、$$
\cos x=\left(1^2-\frac{2^2x^2}{1^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{2^2x^2}{3^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{2^2x^2}{5^2\pi^2}\right)\cdots \tag{4}
$$を得る。

(3)(4)より、$$+\frac{1}{0!}x^0-\frac{1}{2!}x^2+\frac{1}{4!}x^4-+\cdots = \left(1^2-\frac{2^2x^2}{1^2\pi^2}\right)\left(1^2-\frac{2^2x^2}{3^2\pi^2}\right)\cdots
$$これはxについての恒等式なので、x^2の係数を比較して、$$-\frac{1}{2!}=-\left(\frac{2^2}{1^2\pi^2}+\frac{2^2}{3^2\pi^2}+\frac{2^2}{5^2\pi^2}+\frac{2^2}{7^2\pi^2}\cdots\right)
$$両辺に-\frac{\pi^2}{2^2}をかけて、$$
\frac{\pi^2}{8}=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{5^2}+\frac{1}{7^2}+\cdots
$$を得る。



奇数の平方の逆数和は\dfrac{\pi^2}{8}だった!!!!!!!
興味本位で\cos xを弄っていたらこんなことがわかってしまってびっくりです。

ところで、バーゼル問題と新しく見つけた奇数の平方逆数和を並べるとこんな感じになります。\begin{alignat*}{3}
\frac{\pi^2}{6}&=\frac{1}{1^2}&+\frac{1}{2^2}&+\frac{1}{3^2}+&\frac{1}{4^2}&+\frac{1}{5^2}+\cdots \\
\frac{\pi^2}{8}&=\frac{1}{1^2}&&+\frac{1}{3^2}&&+\frac{1}{5^2}+\cdots
\end{alignat*}両辺引いてみましょう。すると奇数の項だけがバシバシと消えて…$$
\frac{\pi^2}{24}=\frac{1}{2^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{6^2}+\frac{1}{8^2}+\cdots
$$
偶数の平方の逆数和は\dfrac{\pi^2}{24}だった!!!!!!!すごい!!!

\sin xから自然数の平方逆数和が求まったのに対し、\cos xから攻めたら奇数のみ、偶数のみの平方逆数和が求まってしまいました。
感動です。


補足

$$
\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots=\frac{\pi^2}{6}
$$の両辺に\frac{1}{2^2}をかけて、\begin{alignat}{5}
\frac{\pi^2}{6\cdot 2^2}&=\frac{1}{1^2\cdot 2^2}&&+\frac{1}{2^2\cdot 2^2}&&+\frac{1}{3^2\cdot 2^2}&&+\frac{1}{4^2\cdot 2^2}&&+\cdots\\
\frac{\pi^2}{24}&=\frac{1}{2^2}&&+\frac{1}{4^2}&&+\frac{1}{6^2}&&+\frac{1}{8^2}&&+\cdots
\end{alignat}偶数の平方逆数和があっさり出てきちゃいました。
「よく考えたらそりゃそうだよなあ」とちょっと拍子抜け。
ここから奇数の平方逆数和を求めることもできますね。

*1:個人的な意見ですが、マクローリン展開は多少冗長になろうとも全ての項が似た形になるように記述するほうが構造がよく見えてわかりやすく、面白いと感じています。

*2:-+\cdotsというのは「今後も-+が交互に出てきますよ」という意味です。+-\cdotsと書かれる場合もあります。

*3:数学ガール1巻を読みましょう。読みましょう。