【レビュー】小野田博一 著『数学難問BEST100』『数学〈超絶〉難問』『数学〈超・超絶〉難問』を読んで

みなさんこんにちは。カナンです。

小野田博一さんが書いた数学の問題集を3年ほどかけてずっと解き続けていたのですが、やっと完走したのでレビューをしたいと思います。

今回レビューするのは以下の3冊です。

  • 数学難問BEST100
  • 数学〈超絶〉難問
  • 数学〈超・超絶〉難問

数学難問BEST100

数学難問BEST100

数学〈超絶〉難問

数学〈超絶〉難問

数学〈超・超絶〉難問

数学〈超・超絶〉難問

それぞれの問題集の難易度の違い等には触れませんが、3冊全体を通して思ったことなどを書きます。
解いてみたいと思った方は、上記の順番に難しくなっている(と思う)ので興味のあるものから手をつけてみてください。

また、問題や解答の内容を引用している部分があります。もしかしたらネタバレに繋がる可能性もあるため、解くかもしれない方はご注意ください。


このレビューは以下の順番で進んでいきます。

  • この本について
  • 良いと思った点
  • 悪いと思った点
  • まとめ

肩の力を抜いて書くので、みなさんも肩の力を抜いて読んでいただければ、と思います。

この本について

問題の種類

その名の通り、数学の難問をたくさん集めた問題集です。
と言っても赤本やチャートみたいに「はい難しい積分ドーーーーーン!!!!解け解け解け解け解け解け解け解け解けた?解けた?解けた?解けた?解けた?解けた?はい次次次次次次次次次」といったただの物量攻撃問題集ではありません。

扱われる問題の多くが数学的な背景をしっかりと持っており、確率の問題、扱われる数列、積分や級数などには大抵名前がついています。図形問題の証明などは聞いたこともないようなニッチな定理などが出題されて意外と頭を抱えたりします。

また、このような問題を多く扱っていることから、その定理が導出されたエピソードなどが併せて書いてあったりしてちょっと面白かったりします。

Q68 『正弦と余弦の無限級数展開』

$$
\sin x = x - \frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\cdots\\
\cos x = 1 - \frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\cdots\\
$$
 これはニュートンの正弦と余弦の無限級数展開です。ニュートンは,まず\text{arcsin }xを無限級数展開し,その逆関数を求めるという(面倒な)方法で\sin xの無限級数展開を求め,そのあと\sqrt{1-\sin^2 x}を使って\cos xの無限級数展開を求めました。
 ところで,オイラーは,これらの2式を,ド・モアブルの公式を使って導くことができることを示しました(もちろん,テイラー級数展開なども使わずに,です)。その方法が単純で美しいのですが,あなたもド・モアブルの公式を使って同じように導けますか?

小野田博一 『数学〈超・超絶〉難問』 p.173

ほぇ〜〜ニュートンさん面白い人やな

問題の難易度

問題は大学数学やそれ以上レベルの難問がたくさん詰まっていますが、高校生も読者の視野に入れていることから高校数学の知識があれば(厳密性は損なわれますが)解けるようになっているようです。実際、解説は大学数学を使用せず数ⅡB〜ⅢCの知識があればなんとか理解できるように感じました。もちろん、大学数学を知っていればよりスムーズに解ける問題もいくつかあります。
また、厳密性をある程度捨てれば解くのに大学数学が必要ないというだけで、扱っているテーマが大学数学以上であることは何回もあります。連続確率分布を扱うこともあれば、最後のほうではガンマ関数ベータ関数がホイホイ出てきたりします。\frac{1}{2}!を求めさせられたりします。

本の構成

基本的に見開きの右ページに問題が書いてあり、その裏に解答が書いてある形式が繰り返されます。
大学の教科書みたいに全問題の解答が一箇所にまとめて書いてあるわけでは無いので、問題を読む→解く→答え合わせをする→次の問題へといったサイクルがネタバレする恐れなく繰り返すことができます。
(それでも誤爆してページが捲れることもあるので、問題をノートに書き写したら本を閉じちゃうのがいいかもしれません)

また、上記の引用でも感じられると思いますが、基本的に全て口語調で書かれています。「あなたはこれを解くことが出来ますか?」といったスタンスで問題が提示されます。口語調をどう感じるかは人それぞれだと思いますが、これによって数学書によくある堅苦しい雰囲気が無くなっているように感じます。

良いと思った点

やはり、多くの数学的知識をカバーできるという点でしょうか。この場合の知識というのは微分積分などの一般的な知識ではなく、「こんな数列があるんだ!」「こんな名前の関数があるんだ!」といったような知識です。

そうですね、本を読む前は知らなかったけど読んでから知ったものを今挙げるとするならば…

原始ピタゴラス数の一般解/破産問題/ランベルトの連分数/ウォリス積/ライプニッツ級数(連分数展開)/リュカ数/スターリング数/ベイズ推定/ベル数/ウォリスの定理/ベルヌーイ数/包絡線/懸垂曲線の導出/最速降下線/オイラーの定理/ベータ関数/ラプラスの継起の法則

見返してパッと思い出したものだけでもこれだけありますね。たぶんもっとあります。

また、一度示したものを後々の(全く関係なさそうな)問題で使ったりすることもあります。
なので、「こんなところにスターリング数が出てきた!」といった驚きを感じることが多々あります。

このように、数学的背景がある内容を自分の手で導出することで、知見を得ることができるというのがこの本の強みであるように感じました。

悪いと思った点

「悪い」というか、解き進めていて物申したい点があったので書いておきます。客観と主観が入り乱れていると思うので参考程度に読んでください。

※読んだ当時の思考をそのまま書いている部分があるため、勢いだけの文章でもはやレビューとは言えない部分が多いです。覚悟してください(?)

天下りな解説が多い

一問、引用します。前半部分はエピソードなので読み飛ばしてもらっても構いません。

Q77 『未解決問題にちょっとだけ似ている問題』
$$
\sum_{k=1}^{\infty} \frac{1}{k^3} = 1 + \frac{1}{2^3} + \frac{1}{3^3} + \frac{1}{4^3} + \cdots
$$ この値が何であるかは現代でも未解決の問題です。
 また,これのみならず,\sum_{k=1}^{\infty} \frac{1}{k^n}の値は,nが3以上の奇数の場合,どれもわかっていません。なお,nが正の偶数の場合は,オイラーが示しています(次問)。

 さて,オイラーですら上記冒頭の値を求めることはできなかったのですが,それにちょっとだけ似ている以下の無限級数の値を求めることはできました。
 あなたは求めることができますか?$$
1-\frac{1}{3^3} + \frac{1}{5^3} - \frac{1}{7^3} + \cdots \\
1-\frac{1}{3^5} + \frac{1}{5^5} - \frac{1}{7^5} + \cdots
$$

小野田博一 『数学〈超・超絶〉難問』 p.191

僕「う〜〜〜むいくら考えてもわからん」

僕「答え見るか」

A77
  \sin x = x\left(1-\frac{x^2}{\pi^2}\right)\left(1-\frac{x^2}{(2\pi)^2}\right)\left(1-\frac{x^2}{(3\pi)^2}\right)\cdots を使います。
 両辺とも対数をとってから微分し,$$
\text{cot } x =\frac{1}{x} + \sum_{n=1}^{\infty} \left( \frac{1}{x-n\pi} + \frac{1}{x + n\pi} \right) \cdots \cdots \text{①}
$$ \begin{eqnarray}
\frac{\cos x}{1- \sin x} &=& \text{cot }\left( \frac{\pi}{4} - \frac{x}{2} \right) \\
&=& -2 \left( \frac{1}{x-\frac{\pi}{2}} + \frac{1}{x + \frac{3\pi}{2}} + \frac{1}{x-\frac{\pi}{2}} + \frac{1}{x + \frac{3\pi}{2}} +\cdots \right) \\
&&\text{ [①より]}
\end{eqnarray}
 右辺の各項を無限級数展開し(単に割り算すれば求められます),xの同じべき乗ごとにまとめると,
(以下略)

小野田博一 『数学〈超・超絶〉難問』 p.192

僕「は?」

いやいや最初の式はまあバーゼル問題で知ってるとしても、その対数をとり微分してx\frac{\pi}{4} -\frac{x}{2}に置き換えるなんて誰が想像できるねん…
今回は最初の式を失念してたけど、たとえ思い出したとしてもこんなことはしないよ…
まあね。天才の卵に送る本と豪語してますからね。とりあえず対数取ってみたり微分してみたりして、上手いこと奇数の奇数乗の逆数交代和が出るようにxに代入すればいいんですもんね。僕の負けです。いいでしょう。

ふう。一呼吸。

思えば、\sin xを使ったバーゼル問題の証明もいきなりとんでもない無限積が出てきてびっくりしますよね。でもそのときは「は?」とは思いませんでした。むしろ、\sin xの無限級数展開と無限積からバーゼル問題が解けることに感動した覚えがあります。
一方、このQ77の解説を読んだときは「は?」となりました。そんな発想無理すぎると思いました。

完全に僕の憶測でしか無いのですが…\sin xを使ったバーゼル問題の導出を初めてした人は、もしかしたら「バーゼル問題を解くぞ!」と意気込んで解いたのではないような気がします。「\sin xをふた通りの方法で表して係数比較したら、バーゼル問題解けちゃった!」という流れなのではないかな、と思います。もしかしたらQ77で提示されている2つの式もそうなのかもしれません。

そのような式を導出過程を隠して「問題」としてただ提示し、「解説」として背景を説明する、というのは個人的になんだかモヤモヤが残ります。「知らね〜〜〜〜〜〜!!!」という気持ちになります。

個人的にこのようなタイプの問題は「最後に何が得られるかを隠しておき、導出過程を適宜補助する」という方法のほうが、解けたときの感動が大きい気がします。数学ガールの村木先生いるじゃないですか。あんな感じです。

この点だけはどうしても書いておきたく、熱くなってしまいました。
天下りに感じる解説があったら、「解説」としてではなく「解説→問題の順で読む一つの読み物」として読むほうが精神的負担も少なく気楽に読めるように思います。

また、天下りでなくても厳密性を削ぎ落としまくっているため、全体的に解説が雑です。この本一冊で完結させようとせず、問題を解く段階で他の書籍やインターネット等を活用しながら進めていくのが良いのではないかと思います。

まとめ

レビューをまとめます

  • 名前がついているような数列や積分などを幅広くカバーでき、知見を得ることができる
  • 導出した数学者のエピソードなども書いてあって面白い
  • 「数学の問題集」としてまっすぐ解き進めると読みづらいので、インターネット等で調べながら解いたり、数学の知識を得る本として読むのに向いてそう

この本が良書となるかどうかは使う人の読み方・解き方にかかっていると言っても良さそうですね。
実際、解説の雑さにめげそうになったことはありますが、それを上回るほどの知見や数学者エピソードを得ることができたので大満足です。

レビューは以上です。それでは。

おまけ

『古典数学の難問101』も買いました。

古典数学の難問101

古典数学の難問101

『数学〈超絶〉難問』よりかは簡単らしいです。のんびりやります。