【バーゼル問題の幾何学的な証明】バーゼルむかしばなし

この記事は 好きな証明 Advent Calendar 2018 の17日目の記事です。
と同時に、昨日またロマンティック数学ナイトに登壇したのでその振り返り記事でもあります。
romanticmathnight.org

なぜなら!!発表内容が好きな証明そのものだったから!!!

まずは発表に用いた下記のスライドを字幕ありでご覧ください。

Q. これはなんですか?
A. 昔話です。
Q. 無限年が経っているそうですが。
A. 昔話です。

バーゼル問題とは

バーゼル問題とは、以下のような等式のことです。

バーゼル問題$$
\frac{\pi^2}{6}=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots
$$
自然数の平方の逆数を足していくだけで、円周率が出てくるというのは非常に魅力的ですね。

ちなみになぜ名前に"問題"とついているかといいますと、提唱されてから解かれるまで90年ほどかかっていたからだそうです(wiki調べ)。
答えが求まっても何故か名称から"問題"が消えてくれないのは何か"じじょう"があるのでしょうか(激ウマギャグ) *1
きっと彼も複雑な心境を抱えていることでしょう。

証明の流れ

改めて図を書くのが面倒だったのでスライドを切り抜きながら流れを追ってみたいと思います。

やること やれること

湖(円周2km)に城と灯台が向かい合って建っています。
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ここで、城に届く明るさを変えず、灯台を増やしたい場合どうしたら良いでしょう?

この場合、以下の点に注意です。

  • 灯台と城は湖の円周上になければいけない(王様のこだわり)
  • 湖の大きさは自由に変えられる(王様なので絶対的な権力を持っている)
  • もともとの灯台を取り壊すことは可能(王様なので絶対的な権力を持っている)

以上3つのことに気をつけながら、灯台を増やしていきましょう。

灯台の性質

3つのポイントを押さえると簡単に灯台を増やすことができます。



まず、明るさは距離の二乗に反比例するということ。

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灯台の距離が2倍、3倍となるごとに、感じる明るさは\frac{1}{4}\frac{1}{9}となるということです。



次に、下図のような直角三角形では\displaystyle \frac{1}{h^2}=\frac{1}{a^2}+\frac{1}{b^2}が成り立っているということ。

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先程の明るさの話と併せると…

  1. 直角の頂点から斜辺におろした垂線の足にある灯台を取り壊し、
  2. 2つの頂点に新しい灯台を建てる

ことで、城に届く明るさを変えずに灯台の数を増やすことができます。

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(※2つの図では城で観測できる明るさは等しい)



最後に、湖の直径を2倍に大きくすれば新しい灯台は全て円周上に乗ります。

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こうすることで、灯台を増やすことができました!やったね!

ちなみに…
1本の灯台を2本に増やして明るさを変えずに円周上に乗せる方法(灯台の位置)は一意ではないですが、正確には「湖の大きさを倍にしたあと、灯台を明るさを変えずに円周上に建てる方法」を考えています。
そうすると次に書くように嬉しいことが起こります。

倍々灯台

めでたく灯台が増えました。
それでは、新しい2本の灯台それぞれに対して同じ方法を使うとどうなるでしょうか?

すると、

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2本だった灯台が

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4本に増え…

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8本に増えます。

しかも、灯台同士を結ぶ弧の長さは2kmのまま!
非常に美しいですね。

湖から海に

では、同様の方法を無限回行うとどうなるでしょう?
(王様なので無限本の灯台を建てられる財力を持っている)

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無限に大きくなった湖は海のようになり、湖畔が直線になりました
そして、灯台同士の間隔は2km城に届く明るさも変わらないままです。

1km先にある灯台から感じる明るさを1とすると、

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円周2kmだった頃に感じる明るさは\displaystyle \frac{\pi^2}{4}で…

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明るさを変えずに湖畔が直線になるまで灯台を増やしたので…
こんな式が成り立ちます。
$$
\frac{\pi^2}{4} = 2 \times \left( \frac{1}{1^2} + \frac{1}{3^2} + \frac{1}{5^2} + \frac{1}{7^2} + \cdots \right)
$$
両辺を2で割って…

$$
\frac{\pi^2}{8} = \frac{1}{1^2} + \frac{1}{3^2} + \frac{1}{5^2} + \frac{1}{7^2} + \cdots
$$
こんな式が得られました。

ラストスパート

スライドではさらにもう1ストーリー挟んでいますが、数学的にはこの式が導かれた時点で勝ちです。
さくっと行きましょう。

求めたい値をひとまずXと置くと、$$
X=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots
$$両辺に\displaystyle \frac{1}{4}\ \left(=\frac{1}{2^2}\right)を掛けて、$$
\frac{1}{4}X=\frac{1}{2^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{6^2}+\frac{1}{8^2}+\cdots
$$上式から下式を引くと1/(\text{偶数})^2の項が消えるので、$$
\frac{3}{4}X=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{5^2}+\frac{1}{7^2}+\cdots
$$右辺が\displaystyle \frac{\pi^2}{8}だったので、$$
\frac{3}{4}X=\frac{\pi^2}{8}
$$Xについて解けば、$$
X=\frac{\pi^2}{6}
$$つまり$$
\frac{\pi^2}{6}=\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots
$$が得られた。
奇数や偶数の逆数平方和については過去の記事でも少し触れているのでそちらを眺めると理解が深まるかもしれませんし深まらないかもしれません。
canaan1008.hatenablog.com

謝辞

元ネタ

今回扱った証明手法は次の動画を参考にしました。


Why is pi here? And why is it squared? A geometric answer to the Basel problem

数学のビジュアライズがめちゃめちゃ綺麗でとってもわかりやすいのでオススメでございます。
バーゼル問題のこんなロマンティックな証明があるなんて…!と思い勝手にストーリーつけてロマ数で突発的に発表するくらいには感動しました。
マジでありがとうございます。

今回のスライドの絵は全て豆御飯さんに描いていただきました。登場人物のモフモフ度が高くて非常に良き。
たぶん数学者は僕をモデルに描いたんだと思う。

素晴らしい絵はもちろんのこと、全然数学界隈の人じゃなかったのに数式まで頑張って書いてくれて感謝しております。
マジでありがとうございます。

まとめ

ということで、まとめ。

バーゼル問題の導出というと\sin xのテイラー展開と因数分解から求める方法*2が有名ですが、図を用いたこんな証明があるとは非常に感動です。
個人的にはこちらの証明のほうが「あ〜〜確かに円を使ってるから結果に円周率が出てくるのも納得だな〜〜〜」って腑に落ちる感覚があって好きです。

何なんでしょうね、この、図形を使って証明されたときの「マジだった」って感覚は。
厳密性はさておき、こういう証明は数式をあまり使わないので数学に苦手意識を持っている方にも「すげえ!」って思ってもらえそうで非常に良いと思います。
というか数学に苦手意識持ってなくても「すげえ!」ってなるからもっと広まれ。

ということで、この記事はこのあたりで。
ありがとうございました。

*1:「2乗」と「事情」を掛け言葉にするのはたぶん数学ネタの中で入門レベルだと思う(体感)

*2:これも先程の記事で軽く紹介してます。 canaan1008.hatenablog.com