【§2】ひとまずSzemerédiの定理へ

*4/25追記:一部の議論を追加、修正しました。
§2 The finite cyclic group settingを読んでいきます。

前回は定義をたくさんして議論の準備ができました。
canaan1008.hatenablog.com

そして、今回のテーマとなる定理はこちら!ババン

定理2.4 定量的回帰定理
任意の整数k\geqq 1、十分大きな素数N\geqq 1、任意の0 \lt\delta\leqq 1に対し、
\int_{\mathbb{Z}_N}f\geqq\deltaを満たす任意の非負値有界関数f:\mathbb{Z}_N\to\mathbb{R}^+に対して、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f\right) \gg_{k,\delta} 1
$$が成立する。
この定理自体の証明は後回しにしますが、この定理が成り立つとするとそこからSzemerédiの定理を導くことができます

というかこの論文、「Aが成り立つとするとBが成り立つよ!Aの証明はあとでやるから」ってスタンスで進んでいくようです。

成り立つなら成り立つ

定理2.4\RightarrowSzemerédiの定理 の証明をします。

k,\deltaを固定、Nを十分大きな整数とし、A\subset \{1,\dots, N\}\frac{|A|}{N}\geqq\deltaを満たすと仮定する。
ベルトランの仮説より、kN\lt N' \lt 2kNを満たす素数N'が存在する。
ここで射影pr_{N'}:\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_{N'}に対して、\iota:\{1,\dots,N\}\to\mathbb{Z}_{N'}を$$
\iota := pr_{N'}\mid_{\{1,\dots, N\}}
$$と定めると、これは単射となる。A\subset\{1,\dots,N\}の元に対する写像\iotaの像\iota(A)A'\subset\mathbb{Z}_{N'}とする。


このとき、\begin{align}
\int_{\mathbb{Z}_{N'}}\mathbb{1}_{A'}&=\mathbb{E}_{\mathbb{Z}_{N'}}\mathbb{1}_{A'}\\
&=\frac{|A'|}{N'}\\
&=\frac{|A|}{N'}\\
&\gt \frac{|A|}{2kN}\\
&\geqq \frac{\delta N}{2kN}\\
&=\frac{\delta}{2k}
\end{align}なので、定理2.4の仮定を満たしているため$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_{N'}}\left(\int_{\mathbb{Z}_{N'}}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}\mathbb{1}_{A'}\right)\gg_{k,\delta}1
$$が成り立つ。


これより、\begin{align}
\frac{1}{N'}\sum_{r=1}^{N'}\frac{1}{N'}\sum_{x=1}^{N'}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}\mathbb{1}_{A'}(x) &\gg_{k,\delta}1\\
\frac{1}{(N')^2}\sum_{r=1}^{N'}\sum_{x=1}^{N'}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}\mathbb{1}_{A'}(x) &\gg_{k,\delta}1\\
\sum_{r=1}^{N'}\sum_{x=1}^{N'}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}\mathbb{1}_{A'}(x) &\gg_{k,\delta}(N')^2\\
\sum_{r=1}^{N'}\sum_{x=1}^{N'}\prod_{j=0}^{k-1}\mathbb{1}_{A'}(x+jr) &\gg_{k,\delta}(N')^2\tag{1}
\end{align}*1


ここで$$
\prod_{j=0}^{k-1}\mathbb{1}_{A'}(x+jr)=\begin{cases}
1&(\underbrace{x,x+r,\dots, x+(k-1)r}_{k\text{個}} \in A')\\
0&\text{otherwise}
\end{cases}
$$であることから、(1)式は$$
\left|\left\{(x,r)\in\mathbb{Z}_{N'}^2\mid x,x+r,\dots, x+(k-1)r \in A'\right\}\right|\gg_{k,\delta}(N')^2\tag{2}
$$と同値。


r=0の個数((2)の左辺における(x,0)\in\mathbb{Z}_{N'}^2の個数)は高々N'
Nが十分大きければ、(2)よりr\neq 0である長さkの等差数列
x,x+r,\dots, x+(k-1)rA'に含まれる。


\iotaは単射なので、x\in A'に対してa:=\iota^{-1}(x)\in Aが定まり、a\in Aより$$
1\leqq a \leqq N
$$を満たす。
また、d:=\iota^{-1}(x+r)-aとすれば、d+a=\iota^{-1}(x+r)\in Aであるためaの範囲と合わせると$$
-N \lt d\lt N
$$
ここで0\leqq j\leqq k-1を満たすjについて、a+jdを考える。
a,j,dの範囲より、a+jdは$$
-(k-1)N\lt a+jd \lt kN
$$を満たす。

pr_{N'}(a+jd)=x+jr\in A'なので、c_j:=\iota^{-1}(x+jr)とすると、$$
a+jd\equiv c_j \pmod{N'}\tag{3}
$$c_j\in Aであることから1\leqq c_j\leqq Nより\begin{align}
-kN\lt a+jd-c_j &\lt kN\\
|(a+jd)-c_j| &\lt kN
\end{align}kN\lt N'より$$
|(a+jd)-c_j| \lt N'
$$これと(3)より、$$
a+jd=c_j
$$c_j\in Aであることから、a+jd\in Aとなる。


すなわち、A'が含む初項x、公差r(\neq 0)、項数kの等差数列に対する初項a、公差d(\neq 0)、項数kの等差数列がAに含まれることが示された。

軽く解説

仮定を満たすために

証明の中では、\begin{align}
k:\ &\text{見つけたい等差数列の長さ}\\
A:\ &\text{等差数列を探し出したい集合}(A\subset \{1,\dots, N\})\\
\delta:\ &\{1,\dots, N\}\text{に対する}A\text{の密度}\\
N:\ &\text{整数(今回は素数とは限らないことに注意)}
\end{align}として考えています。
Szemerédiの定理の仮定として用いられているこれらの記号を使って、定理2.4の仮定を満たすようなものをうまいこと組み立てていきます。

定理2.4(再掲) 定量的回帰定理
任意の整数k\geqq 1、十分大きな素数N\geqq 1、任意の0 \lt\delta\leqq 1に対し、
\int_{\mathbb{Z}_N}f\geqq\deltaを満たす任意の非負値有界関数f:\mathbb{Z}_N\to\mathbb{R}^+に対して、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_N}\left(\int_{\mathbb{Z}_N}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}f\right) \gg_{k,\delta} 1
$$が成立する。
定理2.4の仮定では、整数素数非負値有界関数密度が必要になります。
Szemerédiの定理の証明に用いたいk,A,\delta,Nを用いてこれらを作ると、次のようにすれば良いでしょう。

定理2.4の仮定 新しく作ると…
整数k k (そのまま)
素数N kN\lt N' \lt 2kNを満たす素数N'
非負値有界関数f \mathbb{1}_{A'} (A'A\mathbb{Z}_{N'}に埋め込んだもの)
密度\delta \frac{\delta}{2k}

※表の左側は定理2.4の値、右側は証明中の値であることに注意!

これらの置き換えを行うことで定理2.4の仮定をうまいこと満たすため、$$
\mathbb{E}_{r\in\mathbb{Z}_{N'}}\left(\int_{\mathbb{Z}_{N'}}\prod_{j=0}^{k-1}T^{jr}\mathbb{1}_{A'}\right)\gg_{k,\delta}1
$$が成り立つというわけです。

等差数列発見器

特性関数の定義から、x,rに対して、$$
T^{jr}\mathbb{1}_{A'}(x)=\mathbb{1}_{A'}(x+jr)=\begin{cases}
1&(x+jr\in A')\\
0&(x+jr\notin A')
\end{cases}
$$が成り立ちます。
x+jrA'に含まれていれば1、含まれていなければ0です。

ここでj0からk-1まで動かすと、x+jrA'に含まれているか含まれていないかで01の値を取るわけですが、それらを全て掛け合わせることで、(x,r)に関して

x,x+r,\dots, x+(k-1)rA'全て含まれていれば1
一つでも含まれていなければ0

を得ることができます。
初項がx、公差がr、長さがkの等差数列がA'に含まれているかどうかがわかるというわけです。すごい!

x,rをそれぞれ\mathbb{Z}_{N'}で動かして、長さkの等差数列が含まれているかどうかで0,1の値を取るわけですから、$$
\sum_{r=1}^{N'}\sum_{x=1}^{N'}\prod_{j=0}^{k-1}\mathbb{1}_{A'}(x+jr)\gg_{k,\delta}(N')^2
$$の左辺は長さkの等差数列を何本含んでいるか、というのを表しています。つまり、$$
\left|\left\{(x,r)\in\mathbb{Z}_{N'}^2\mid x,x+r,\dots, x+(k-1)r \in A'\right\}\right|\gg_{k,\delta}(N')^2
$$という置き換えができるわけです。

Nで持ち上げて

もうちょっと式をわかりやすく読み替えると、$$
(A'\text{内にある初項}x,\text{公差}r, \text{長さ}k\text{の等差数列の本数})\gg_{k,\delta}(N')^2\tag{3}
$$となります。

ただ…r=0のときは公差0ですから等差数列とは言い難いですね。
いや厳密には等差数列かもしれないんですが、x,x,x,\dots, xというのを探したいんじゃないんです。
しかーし!x\in\mathbb{Z}_{N'}であることから、あったとしても高々N'本です。

ここで改めて(3)式を見ると、長さkの等差数列の本数は(N')^2(の定数倍)本以上あることを示しています。
r=0の等差数列()があったとしても高々N'本ですので、Nを十分大きく取るとA'にはr\neq 0の長さkの等差数列を必ず含む必要がでてきます。

対応する等差数列

さて、このようにして等差数列が見つかったわけですが、これはA'内で等差数列が見つかっただけに過ぎません
本当に探したかったのはAの範囲内なのです……

とりあえずx\in A'なので、\iota^{-1}(x)の値をA内で見つかりそうな数列の初項aとしましょう。
そしてx+r\in A'でもあるので、\iota^{-1}(x+r)の値をA内で見つかりそうな数列の公差dを使ってa+dとしましょう
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ここで0\leqq j \leqq k-1に対してa+jd\in Aであれば万々歳なんですが、そうなる保証はありません。世知辛い。
Aはおろか、\{1,\dots, N\}に入らない可能性だってあります。

ただ、pr_{\mathbb{Z}_{N'}}によるa+jdの射影はx+jrとなります。(pr_{\mathbb{Z}_{N'}}(a)=x, pr_{\mathbb{Z}_{N'}}(d)=rより)
そして、x+jrに対する\iota^{-1}の写像を考えると、x+jr\in A'であることから\iota^{-1}(x+jr)\in Aとなり、Aの中に入ってきます。この値をc_jとしましょうか。
すると、\mathbb{Z}_{N'}の世界に行ってすぐ帰ってきたのですから、出発したときの値と帰ってきたときの値が異なったとしても、N'を法として合同になるはずです
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ところで、値の範囲を考えると$$
|(a+jd)-c_j|\lt N'
$$であることがわかります。(a,j,d,c_jの値の範囲と、kN\lt N'であることから計算できます。)
つまり、a+jdc_jの距離はN'より小さい、ということを得ます。
2つの値はN'を法として合同であることも加味するとこの2つは等しい値、つまりa+jd=c_jでなければならないという結論になります*2
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このことからa+jdの値はどうあがいてもAの中に含まざるを得ないため、Aの中に等差数列が含まれる、ということになります。

今後

とりあえず定理2.4が成り立つならSzemerédiの定理は成り立つようだけど、そもそも定理2.4が成り立つかどうかがわかんないじゃん!
ということでこのあとは定理2.4の証明が始まります。

ちなみにこちらも突然別の定理(証明はさらに後回し)が降ってきてそこから証明を行うという方法です。

*1:\gg_{k,\delta}Xの定義、つまりO_{k,\delta}(X)の定義はXNによらない定数の積で上から押さえられるので、このように右辺への移項のようなことができるわけです。定数c(k,\delta)でいくらでも右辺の値は調整できるのでひとまず1と書いていたけど、素数Nによらず成り立たせなければいけないため右辺の(N')^2を消すことはできないよ〜〜ってことです。

*2:完全に余談ですがa+jd=c_jという結論を自分の手で導いたとき、あたかも推理小説の探偵になった気分でした。2人は同一人物であるという決定的な証拠を突きつけたような、そんな感じ。